PICK UP ACTRESS 原菜乃華
PHOTO=草刈雅之 HAIR&MAKE=野中真紀子
STYLING=津野真吾(impiger) INTERVIEW=斉藤貴志
35年前の未解決事件に迫る映画「罪の声」で
犯罪に巻き込まれた中学生役で胸を震わせる
――8月に花の17歳になりましたが、夏休みは青春しました?
「コロナがありまして外に出ることも叶わず、家でNetflixを観てました。韓国ドラマの『梨泰院クラス』にハマったり、アニメを今まであまり観なかったんですけど、友だちに好きな子が多くて、お薦めを教えてもらって観ました。『鬼滅の刃』が大好きです」。
――定番ですよね。出演した映画「罪の声」では、35年前の食品会社を標的にした企業脅迫事件がモチーフになっていますが、17歳の菜乃華さんは知らなかった話ですよね?
「生まれるずっと前のことでイメージが全然湧かなくて、ネットで調べたり、両親に当時の話を聴いて、想像を広げていきました」。
――そういう事件が実際にあったことをどう思いました?
「劇場型犯罪と言われてますけど、あんなに大胆で犯行声明を出すような事件が、ドラマの中ではなく実際にあったんだと驚きました。『何で犯人が捕まらなかったんだろう?』という疑問に、キツネ目の男の写真、子どもの声が使われた脅迫テープ……。本当に不思議な事件だと思いました」。
――菜乃華さんが演じた生島望は、そのテープに声を使われた3人の子どもの1人で、一家揃って消息を絶ちました。しんどい役だったのでは?
「撮影に入る前に友だちと連絡を絶って、1人で望の心情や状況について深く考える時間を作りました。どんどん自分を追い詰めて沈んでいって、ごはんもあまり食べられなくなって、ボーッとしている時間が増えて。役を演じる上ではいいことかもしれませんけど、本番までがめちゃくちゃ長く感じて、自分の中で勝手に大変なことになっていました(笑)」。
――もし自分の声が犯罪に使われたら……とも考えて?
「そこを掘り下げて自分で噛み砕く作業をしましたけど、『私だったら……』と考えるだけでつらくなりました。想像すればするほど本当にきつくて、すべてを投げ出したくなるくらいに感じました」。
――それだけに、予告編にも使われている菜乃華さんの「あのテープのせいで一生台なしや!」という叫びは、胸が引き裂かれるほど悲痛でした。
「難しいことは考えていません。現場に入るまでに、しっかり気持ちは作ってきたので。ただ、監督から『望ちゃんはこの映画の中で希望の存在だから、つらくても前向きな姿勢を忘れないでほしい』とアドバイスをいただいたので、それだけを胸に留めて思い切り演じました」。
――確かに、公衆電話で泣きながら「絶対絶対夢叶える!」と強く言ってました。
「私だったら精神的に折れちゃって、逃げ出そうとする気力もなかったと思います。だから、望ちゃんの夢に対する熱量は本当にすごいと思います。想像するだけで暗くなっちゃう状況でしたけど、そこで暗く演じてしまうのは違う。つらい気持ちの倍、『負けない!』という意志もしっかり持つ。そんな心持ちでいました」。
――演じるというより、もう望になっていたんですね。
「そうですね。あの電話のシーンはドライリハーサルから涙が止まらなくなりました。2回だけ段取りをやって、監督が各部署に急いで確認して、『すぐカメラを回そう』という形にしてくださったんです。撮り終わって『ちゃんとできていたよ』と言っていただけました」。
――菜乃華さんは子役の頃、プロフィールの特技に“泣く演技”とありました。
「書いてました(笑)。自分ではそんなに得意という意識はなかったんですけど、感情をぶつけるシーンのときに『良かったよ』と言ってもらえることが多くて、そこは自分の強みなのかなとは思ってました」。
――同じ泣く演技でも、昔と今で取り組み方が変わったりは?
「ないです。涙を出そうとするより、感情を作ります」。
――普段は泣きがちではあるんですか?
「そんなに泣きません。落ち込むことは多いですけど、人前で泣くことはないですね。怒ったりもしなくて、友だちとケンカとか一切なくて、穏やかに生きています(笑)」。
――でも、役になればあれだけ感情を爆発させるとは、本当に女優体質なんでしょうね。望ほどの状況ではなくても、「もうイヤや!」となったことはないですか?
「いっぱいあります(笑)。お仕事に関しては、小さい頃、オーディションに一切受からなくて、『もうやめようか』と思っていた時期もありました。そういうときに出会うべき作品に出会えて、『もう少し続けてみよう』と思って、今がある感じです」。
――もし菜乃華さんが女優の仕事をできないことになったら、まさに望のような気持ちになりましたかね?
「台本を読んだとき、自分にとっての役者と望ちゃんの夢は通じるものがあると、すごく感じました。だから、あまり深いことを考えず、自分が役者の夢を捨てなきゃいけない状況に置かれたら……とひたすら想像して演じました」。
勉強するのもバイトをするのも
全部がお芝居に繋がると思います
――望の夢は映画の翻訳家でした。その仕事自体は、菜乃華さんも興味はあります?
「気になります。英語と日本語では表現の仕方が全然違うと言うじゃないですか。翻訳する人によっても、短い言葉で表さないといけないから、意味合いが変わってくるのが面白いと思います。私は英語は全然できないんですけど(笑)」。
――洋画は観ますか?
「最近、苦手意識がなくなりました。前は字幕を読むと話の展開についていけなかったし、英語が嫌いというだけで邦画ばかり観がちだったんです。でも、配信サイトに加入してから、洋画をめちゃめちゃ観るようになりました。面白い作品がいっぱいあって、友だちに薦められたり“おすすめ”に出てくるものを片っ端から観ている感じです」。
――特に面白かった洋画というと?
「最近観たのでは、『リミット』と『ゴーン・ガール』です」。
――ミステリー系ですね。邦画にはない感じはありました?
「発想がすごいと思います。『リミット』は回想とかで外のシーンもあるかと思ったら、1時間半、ずっとあの棺の中。こういう面白い作品に出てみたいとも思いました」。
――望みたいに留学したいと思ったことは?
「今のところ、ないです。でも、お仕事に限らず、英語が話せたらいいですよね。前に友だちと横浜に遊びに行ったとき、外国の方に道を案内してほしいと言われて、まったくしゃべれなくて……。英語ができたら、絶対に人生楽しいと思うので、ちゃんと勉強したい気持ちはありますけど、なかなか難しいですね(笑)」。
――今回、望のシーンは35年前なので、公衆電話に触れたのも初めてだったのでは?
「今は携帯があるから全然使いませんけど、家に忘れてきたときにどうしようかと思って、公衆電話でかけようとしました。でも、使い方がよくわからなくて、結局かけられなくて。10円玉を入れて留守電だったら、もうおしまいですか? また10円玉を入れないといけないんですか?」。
――そうなんですよ。あと、関西弁も練習したんですか?
「方言を話す役は初めてでしたけど、そんなに苦労はしませんでした。方言指導の方が録音してくださった台詞を、家にいるときや移動中に毎日ずっと繰り返し聴いて、音程の付いた音として覚えました。器用ではないので、現場でお芝居のことと平行して方言のことを考える自信がなかったんです。だから、方言は考えなくても自然に出るように完璧にしておいて、あとは気持ちを乗せていけば大丈夫な状態で撮影に入りました」。
――それくらいやって、菜乃華さんの名演技は生まれていたんですね。
「関西弁は現場で『上手だね』と誉めていただけて、嬉しかったです」。
――試写を観て、作品全体にはどんなことを感じましたか?
「2時間20分ありますけど、最初から最後までずっと目が離せませんでした。サスペンスでもあり、ヒューマンドラマでもあって。私自身、この作品をやって元の事件のことも知れて良かったし、私と同年代の若い方が観ても、絶対面白いと思います。世代に関わらず、伝わることがしっかりある気がします」。
――先ほど、望の「夢に対する熱量」という話が出ましたが、菜乃華さんは女優になる夢はとりあえず叶えた上で、さらに目指していることはありますか?
「女優としてまだまだなので、いっぱいあります。自分のキャラクターを確立させたくて、『この役は原菜乃華で良かった。他の人にはできなかった』と言ってもらえる女優さんになることは、ひとつの大きな夢です」。
――「〇〇な役なら原菜乃華」と名前が挙がる存在になろうと?
「私はキツい女で行きたいです」。
――えっ? そっちなんですか?
「そっちではないと思いました(笑)? もちろんいろいろな役をやってみたいですけど、小さい頃から怒っている役がハマると言われることが多くて、キツい路線は特に頑張ろうかなと思っています」。
――日々の生活の中で、演技力を磨くためにしていることはありますか?
「普通に勉強するのも友だちと電話するのも、全部がお芝居に繋がると思っていて、私、アルバイトをしたんです。短い期間でしたけど、そのおかげで受かったと思っているオーディションもあります。いろいろな経験がすべて演技に活きていて。今の状況だと、アルバイトもどこかに出掛けたりもできませんけど、たくさんの人と話すだけでも、お芝居に影響は出るので、そういうことを17歳なりに楽しみたいです」。
――ちなみに、バイトは何をしたんですか?
「スーパーのレジ打ちです。品出しもしました。楽しかったし新鮮で、お給料をいただく重みも肌で感じました」。
――この秋も楽しんでいることはありますか?
「秋は一番好きな季節で、今年はあまり外に出られない中で、モンブランにハマっています。今やっている撮影が終わったら、ダイエットはいったん中止して(笑)、秋の甘い味覚を楽しもうと思っています。やっぱり食欲の秋で、おいしいお肉もいっぱい食べたいです(笑)」。
原菜乃華(はら・なのか)
生年月日:2003年8月26日(17歳)
出身地:東京都
血液型:A型
【CHECK IT】
子役としてデビューし、映画「地獄でなぜ悪い」(園子温監督)でヒロインの幼少期を演じて注目される。主な出演作は、ドラマ「夫のカノジョ」(TBS系)、「ビンタ!~弁護士事務員ミノワが愛で解決します~」(読売テレビ・日本テレビ系)、「朝が来る」(東海テレビ・フジテレビ系)、「二つの祖国」(テレビ東京系)、映画「ピラメキ子役恋ものがたり~子役に憧れるすべての親子のために~」、「3月のライオン」、「はらはらなのか。」、「無限ファンデーション」など。映画「罪の声」は10月30日(金)より全国東宝系にて公開。
詳しい情報は公式HPへ
「罪の声」
詳しい情報は「罪の声」公式サイトへ
(c)2020 映画「罪の声」製作委員会